2018年3月6日

お知らせ 2月28日第1回シンポジウムを開催しました

「サステイナブルコミュニティ創生シンポジウム」

~持続可能な地域循環型経済コミュニティの形成~

2月28日(水)、「サステイナブルコミュニティ創生シンポジウム」は、増田寛也・共同代表理事、柏木孝夫・共同代表理事の開会挨拶のあと、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官補の末宗徹郎氏と総務省地域力創造グループ地域政策課課長の村手聡氏から来賓挨拶をいただき、講演、パネルディスカッションに移りました。

【来賓挨拶】

▽末宗徹郎・内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官補
私たちの「まち・ひと・しごと創生本部」は地方に①仕事を作る②人の流れを作る③出産や子育てを支援する④街づくりを応援する――という4つの仕事をしています。この中で「人の流れを作る」というのが一番難しいのですが、地域分散型の木質バイオマス発電所が出来て行けば、雇用が生まれ人の流れが生まれます。その意味で協会の活動は素晴らしい取り組みだと評価し、期待しています。

▽村手聡・総務省地域力創造グループ地域政策課課長
私たちの「地域力創造グループ」は平成20年に誕生した組織です。地方を元気にするには地域資源を生かして循環型経済を確立することが何よりも重要との認識に基づいて作られ、今もその重要性に変わりはありません。人が都市に流出せず、あるいは来てもらうためには雇用の場という養う糧が必要です。今回の協会の設立は私たちにとって「わが意を得たり」の思いで、感謝しています。

【講演】

▽杉山範子・共同代表理事(名古屋大学大学院環境学研究科特任准教授)
「欧州にみる首長誓約による新コミュニティ形成」

欧州ではEU(欧州連合)の二酸化炭素削減目標を上回る目標を盛り込んだ「持続可能な気候・エネルギー行動計画」を作り、域内の首長がこれに賛同し誓約する動きが広まりました。2030年までに二酸化炭素排出量40%削減と、気候変動の適応策に取り組むという内容です。高い目標にもかかわらず2018年2月現在で7700を超える自治体が誓約し、その人口はEU総人口の約50%に達しています。 大きな自治体だけでなく人口数千人の自治体も参加できます。削減の実効を上げるため、たくさんのコーディネーターや自治体のヘルプデスクの役割を担うサポーターが多数登録され、自治体同士のネットワークが次々とできています。 窓の二重化をはじめ、屋上に太陽光発電設備を設置する学校や、暖房・給湯のため建物ごとボイラーの利用から熱電併給発電に切り替えるところも出るなど、欧州各地で様々な工夫が広がっています。 日本でも同様な仕組みや考えを取り入れることにより、エネルギーの地産地消などが起き、資金還流による地域内での設備投資も活発になることが期待されます。環境に対する取り組みが高まれば自治体のブランド力も高まり、企業進出のきっかけとなるでしょう。
プレゼン資料ダウンロード
(5.3MB)
▽吉田誠・内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官/内閣府地方創生推進事務局参事官
「地方創生とエネルギー~木質バイオマス利用を中心に」

木質バイオマス発電による地域創生の可能性に期待しています。地方創生を国として支援するため、「地方創生推進交付金」という制度がありますが、これは地方創生を様々なジャンルから推進できるよう運用に柔軟性を持たせています。ぜひ皆様に使っていただき、地方創生のお役に立てたらと考えています。
また総務省では「分散型エネルギーインフラプロジェクト」という事業を実施しています。地方公共団体を核にして需要家、地域エネルギー会社、および金融機関等が地域の総力を挙げてバイオマス、廃棄物等の地域資源を活用した地域エネルギー事業を立ち上げるマスタープランの策定に補助金を交付し、支援するものです。2016年までに全国で39団体がプランを策定し、2017年度も新たに4団体で策定中です。
分散型エネルギーのインフラを整えることは防災面からみても有効な施策だと考えています。地域の資源でエネルギーを作れば、資金が海外に流出することもなく、為替変動の影響を受けることもないからです。
木質バイオマス発電は太陽光発電と違って原料を買う必要があるが、その原料は間伐材など地域にある資源を購入するので、資金が地域外に流出するのではなく、いい意味で循環し、様々な経済効果を出します。発電事業で得た利益を街づくりに投入することもできるのです。
プレゼン資料ダウンロード
(9.1MB)
▽竹林征雄・NPOバイオマス産業社会ネットワーク副理事長
「再生可能エネルギー利用と地域再生の可能性」

2050年という年は、2000年生まれで今18歳の高校生が、ちょうど50歳になる年です。将来世代につけを残さないために、エネルギー源の転換をする必要があります。地球レベルの温暖化、人口増、貧困、有限の地下資源など直面する問題解決のためにも大事なことなのです。
ドイツを見ると木材関係者は130万人、建築会社や木材関連機械などを加えると木材関連産業は30兆円産業になっているのです。一方、わが国には木材一貫産業が育っておらず、木材産業は2.5兆円とドイツの8%程度にとどまっています。日本の多くの人が、山にある木材が「お宝」であることに気づいていないことを示しています。樹木は伐採しても、芽を出して再生するのです。適正に管理すれば持続可能な資源なのです。 資源エネルギー庁のエネルギー白書(2015年度の数値)で天然ガス、石油、石炭などの燃料輸入金額は19.5兆円にも上ります。これだけの金額が海外に流出しているのです。これを地域にある再生可能エネルギーで賄うことができれば、どれだけ素晴らしいことでしょう。
群馬県上野村では発電所にペレット工場、きのこセンターなどを併設したところ150人の雇用の場が誕生したといいます。
木質バイオマス熱電併給システムを導入するには①木質燃料の確保②電気を送る線の確保③用地の確保④収支を大きく変動させる熱利用計画を立てる⑤行政、近隣住民との良好な関係を構築する⑥良いコンサルタントの確保⑦資金は域内調達を旨とする――という七原則を守ることが大事です。
最後に地域発電所を本当に成功させるには、「絶対やるのだ」という強い覚悟と行動が必要です。人口減少の中で自治体がこれまで通り、住民への公共サービスをフルで提供できる時代では無くなりました。
プレゼン資料ダウンロード
(6.4MB)

 

【質疑応答とパネルディスカッション】

このセクションでは、まず前段で行われた講演を受けて参加者と質疑応答を行った後、杉山範子・共同代表理事(名古屋大学特任准教授)、吉田誠・内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官(内閣府地方創生推進事務局参事官)、竹林征雄・NPOバイオマス産業社会ネットワーク副理事長、島田俊光・宮崎県串間市長が登壇し、乾正博・日本サステイナブルコミュニティ協会副代表理事(洸陽電機社長)の司会でパネル・ディスカッションを行いました。

パネラー:

●杉山 範子 【博士(環境学)】
日本サステイナブルコミュニティ協会 共同代表理事/名古屋大学 特任准教授

●吉田 誠 様
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 参事官/内閣府 地方創生推進事務局 参事官

●竹林 征雄 様
NPOバイオマス産業社会ネットワーク 副理事長/(一社)エネ経会議エネルギーなんでも相談所 担当理事

●島田 俊光 様
宮崎県串間市長

モデレーター:

●乾 正博 様 日本サステイナブルコミュニティ協会 副代表理事

 

▽質疑応答

  • 質問者1日本では再生可能エネルギーの利用や熱の利用が欧州と比べてなぜ進まないのですか。
  • 杉山我が国は、計画づくりはできても、実行があまり得意ではないようです。省エネというと寒くても暖房をつけずに我慢すること、と考える人が多いようですが、炭素からの脱却を含め、エネルギーを再生可能エネルギーに転換することが最も大事です。化石燃料に使っていたお金を福祉に回せるようにもなります。欧州が熱を使わざるをえないのは、地理的に寒いからです。エネルギーへのお金の使い方を私たちはもっと真剣に考えてもいいのではないでしょうか。
  • 竹林日本は火鉢、こたつ文化から抜け切れていないことが1つの背景でしょう。欧州ではドアを3重にしている住宅があり、煮炊きの熱だけで暖房が足りてしまうほど断熱が進んでいます。
  • かつて原油が高かったころ、一時的に木質チップの利用が進み始めましたが、原油価格が下がり始めると、木質チップ利用の流れは止まってしまいました。自治体も第三セクターで負債を負った過去の苦い経験を持っているので、新しい取り組みには慎重です。しかし時代は変わり、地球温暖化など様々な課題を抱えています。その中で熱電併給(コージェネレーション)という仕組みを使えばエネルギーの75%を有効に使えます。再生可能エネルギーについても一歩踏み出す時期に来ていると考えています。
  • 質問者2長野県白馬村の職員です。白馬村はスキー、観光が中心で、残念ながら林業に従事する人は少なく、バイオマス発電、コージェネレーションといっても正直どこから手を付けたらいいのかわかりません。
  • 竹林まず一歩踏み出すことです。小さくやる、身の丈に合った方法でやる。100kWでも200kWでもいいのです。それが出来たら少しずつ大きくし、熱電併給もすればいいのです。

▽パネルディスカッション

  • 講演を通して欧州の動き、地方創生とエネルギーの関係、再生可能エネルギーの利用が地域再生を進めることを学んできました。ここで実際に木質バイオマス発電所の建設を行政として支援している宮崎県串間市の島田俊光市長に、その狙いや今後の展開についてお話を伺います。
  • 島田串間市は宮崎県の南端に位置し、ピーク時に4万人だった人口は現在半分以下の1.8万人にまで減ってしまいました。地域活性化は最も大事な課題でした。そうした中で木質バイオマス発電所を市内に作ろうという動きが洸陽電機をはじめ民間から起こりました。私はこれで串間市を活性化できる新しい地方の時代が来たのだと感じました。串間市は面積の77%を森林が占めるからです。発電所はほぼ出来上がりかけていて、2mW級です。必要な木材をしっかり提供していきます。杉は育つのに40年かかるので、10~15年で成木になる早生樹に植え替え始めています。
  • この発電所は完成すると年間でざっと6億円の売り上げを見込んでいますが、そのうちの2億円ほどは木材の買い取りなどで地元に落ちます。そのお金が地域で循環して活性化の原動力となります。
  • 島田年間2万トンもの木材を集められるのか、という声もありますが、間伐材だけでなく、住宅用に使うには大きすぎる木材を発電用に振り向けていけば必要量は十分提供できます。林業をどうしたら活性化できるか悩んでいましたが、こうした木質バイオマス発電の登場で仕事の場も生まれました。持っている資源を有効に使え、林業家が育ち、地域も潤うことは嬉しいことです。
  • ここで議論を「自治体と事業者(地域内外)の関係づくり」に進めます。事業者はどういう姿勢で自治体と接したらいいのか、自治体は発電や経営のノウハウを持っている事業者をどのように選び出したらいいのか、という問題です。
  • 吉田産学官に金融とメディアも連携すれば、役所が持っていないネットワークができる。これが新しい事業を進める上でとても有効です。
  • 竹林地域には専門的な知識を持っている人が少ないので、地域の立場に立って提案するコンサルタントを使うことが大事です。
  • 地域の中の人が、地域外の人をどう活用するかが大事だという意味ですね。
  • 杉山外から来た人に頼っていたら、居なくなった時、何もできません。しかも落下傘的に外から企業が来ると、地域で稼いだお金の大半が外に流出することだってあります。ですから地域の目線を持つ事業者と手を組み、一緒に働きながら発電所や関連施設を動かせる人材を育てるのです。日本サステイナブルコミュニティ協会の役割は、まさにやる気のある自治体と地域の目線を持つ事業者を出会わせることなのです。
  • 持続可能な地域を作っていくには様々な知識や実行力が必要になると同時に、地域の人自身も持続可能な地域をつくるという目線を持つことがとても大事だと感じました。講師の皆様をはじめ本日は多くの方にご来場いただき、誠にありがとうございました。

【参加者アンケートより】

シンポジウムにご出席いただいた皆様にアンケートにもご協力いただき、第一部杉山氏、吉田氏、竹林氏の講演と第二部パネルディスカッションについてのご意見ご感想、再エネを基軸にした持続可能な地方創生の実現方法についてのご意見ご提案をうかがいました。

シンポジウムの中で語られた欧州や串間での具体的な事例が参考になったという意見を多数いただきました。また、再エネを活用した地方創生を推進するためには地方自治体が主導し、覚悟を持って取り組むことが重要であるという認識を共有することができたように思います。

「地方自治体の位置づけ、役割がドラスティックに変わりつつあることを感じた」
「国→地方自治体→地域といったトップダウンではなく、ボトムアップが大切だと思う」

実際に地方自治体関係者からも、「自治体にノウハウが不足しているので企業とのマッチングをお願いしたい」といった積極的な声もあり、第一回目のシンポジウムとしては目的を果たすことができました。

日本サステイナブルコミュニティ協会は引き続き、持続可能な地域循環型経済コミュニティ形成の重要性を浸透させつつ、協会参加の働きかけを行ってまいります。