2019年7月5日

お知らせ 奥飛騨・高山フォーラム&ツアーを開催しました【7/2:フォーラム】

 奥飛騨・高山【一次産業+観光】×エネルギー
 ~フォーラム&ツアー~

 一般社団法人日本サステイナブルコミュニティ協会(代表理事会長:増田寛也・東京大学大学院客員教授、略称:JSC-A)は、地熱、未利用木材、水力など多様な再生可能エネルギーを活用した発電事業や、温泉を利用した錦鯉やスッポンの養殖に積極的に取り組む岐阜県高山市の奥飛騨地区で7月2-3日、「奥飛騨・高山フォーラム&ツアー【一次産業+観光】×エネルギー」を開催しました。


【7/2(火)フォーラム 場所:奥飛騨総合文化センター】

 初日のフォーラムには岐阜県、高山市、地元の農協、金融機関、中部電力、地熱・バイオマスの地域発電会社などの関係者が登壇し、再エネによる地域創生の可能性を提言しました。

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▽開会挨拶 杉山範子(日本サステイナブルコミュニティ協会代表理事副会長/名古屋大学大学院特任准教授)

 今回の催しは奥飛騨・高山で先進的に取り組まれている温泉、地熱、未利用木材、水といった再生可能資源を活用して、地域の魅力向上と活性化に生かすにはどのようにしたらいいか――について地元の森林関係者、発電事業者、温泉観光業の方々をはじめ、国、岐阜県、高山市といった行政の方も含めてこの地域の未来を考えて行くのが目的です。

▽歓迎挨拶 国島 芳明(高山市長)

 2010年に市長に当選して以降、自然エネルギーの活用で日本一の街になることを訴えてきました。次の世代に残していくべきものは先人が築いてきた地域の文化と、豊かな自然を傷つけずに残していくことが大事だと考えています。今回のフォーラムが残すべきものを考える機会になればと願っています。

<基調講演>

基調講演①

岩田 則子 (中部経済産業局資源エネルギー環境部 部長)
『最近のエネルギー政策について』

 昨年作成された第5次エネルギー基本計画は、①資源自給率、環境適合、国民負担抑制に安全最優先を加えた「3E+S」を基本とする②温室効果ガスを2030年には2013年度比26%削減、2050年には80%削減を目指す③再生可能エネルギーを主力電源とするため2016年度で15%だった電源構成比を2030年には2224%まで高める――ことを基礎に作成しました。 
 FIT(固定価格買取制度)認定容量のうち運転開始済みの割合は51%にとどまります。他方、FITは賦課金という形で国民にも負担を強いており、その負担をいかにして減らしていくかが大きな課題となっています。今後は、未稼働の太陽光発電については調達価格の減額や運転開始期限の設定などで早期運転開始を促していくとともに、調達価格目標の前倒しや入札対象範囲の拡大によって、コストダウンの加速化に取り組んでいきます。

基調講演②

村上 敦 (環境コンサルタント)
『ドイツの事例から学ぶ次世代エネルギーによる地方創生』

 日本では団塊ジュニアの第2次ベビーブーム(197174年)以降人口減少が確実視されていたのに国は何の対策もしませんでした。それが現在の地方の疲弊を招いています。
 高山市を見たとき、既得権益・高齢者層には貯蓄と域外から入る年金がありますが、地域に良い投資先がないため、「貯金→銀行→国債」という流れで結局は外部に資金が流出しています。こうした既得権益者、高齢者の金を地域内の有効な建設、運輸、エネルギー、インフラ、金融、IT系に投資させることが地域経済に効果的に働きます。ドイツの再エネ電力は市民が32%、農民が11%、地域の中小企業が24%を投資しています。日本では都市部の企業が地域に入り込んできており、その“植民地”にならないためには再エネ企業に地元が投資し、地域の人材を送り込み育てることが鍵を握ります。

 

<取組み紹介>

取組み紹介①

辻 博之 (岐阜県商工労働部新産業・エネルギー振興課 課長)
『岐阜県次世代エネルギービジョン』 

「持続可能で活力に満ちた清流の国」の実現を目指し、「再生可能エネルギー創出プロジェクト」「エネルギー地産地消プロジェクト」「次世代エネルギー使用定着プロジェクト」の3つを重点プロジェクトに活動しています。


取組み紹介

中谷 仁 (高山信用金庫 営業統括部 営業推進課 コンサルティングチーム オフィサー)
『地元主導型再エネ事業と地域金融機関が果たす役割』  

 奥飛騨温泉郷5つの温泉地宿泊者数は平成10年に958000人だったのが平成30年には547000人と減少している。こうした中で地元主導型再エネ事業が始まり、社会的意義と経済的利益の追求が求められている。預金者から預かったお金を融資する間接型金融なので、各種リスクの全体把握とそのヘッジ策を考え、事業が継続できるよう経営者とともに歩みたい。

取組み紹介③

細江 和久 (飛騨農業協同組合 金融共済担当常務)
飼本 勝彦 (飛騨農業協同組合 営農推進対策室営農企画課 課長)

『小水力発電による地域貢献活動~飛騨市数河地区の事例紹介~』 

 「JAひだ」では飛騨市古川町数河で発電能力49.9kWという小水力発電施設を稼働している。数河開拓用水という農業用水を活かした発電で国や県の支援を受けて実現した。発電した電気を電力会社に売り、その収入を活用して用水路補修管理や土地改良など農業基盤の整備を進めている。また荒廃農地を復活させて竹の子を栽培し、缶詰に加工して村おこし特産品として販売している。


取組み紹介

清水 満 (奥飛騨水力発電株式会社)
『地域貢献型小水力発電の特長』

 奥飛騨水力発電は水力開発で豊富な実績を持つシン・エナジーと日本発電が連携して、適正ルールを遵守して乱開発を防ぎながら開発するのを旨としている。奥飛騨地区は日本でも有数な高密度小水力エリアである。地域貢献型水力開発を目指し、①地域の利害関係者がプロジェクトの大半を所有する②意思決定はコミュニティに基礎を置く組織が行う③社会的・経済的便益の多数は地域に分配――を原則にしている。これを実践するため、売電収益の一部を「地域振興基金(仮称)」として地域に還元する方針にしている。

取組み紹介

小林 正輝 (奥飛騨自然エネルギー合同会社)
『恵まれた温泉資源を次世代に継承』 

 奥飛騨温泉郷の家庭では、半分以上のエネルギーを温泉資源で確保している。温泉は浴用、暖房、温水プール、野菜栽培、魚介類養殖、温泉卵、ヒートポンプの一次熱利用など多岐の用途がある。温泉の維持管理には相応の経験や司式と技術が必要で、数少ない後継者がそれを習得するのは難しく、奥飛騨地区として維持管理会社を作ることが温泉郷維持のカギを握る。

 

<パネルディスカッション>

「日本版シュタットベルケ構築に向けて」

パネリスト :國島芳明・高山市長
       村上敦・環境ジャーナリスト/コンサルタント
       坂井晃・中部電力再生可能エネルギーカンパニー企画室長
       谷渕庸次・飛騨高山グリーンヒート合同会社代表取締役社長

モデレーター:乾正博・日本サステイナブルコミュニティ協会副代表理事/シン・エナジー社長

  • それでは「日本版シュタットベルケ構築に向けて」をテーマにパネルディスカッションに入ります。最初に國島芳明・高山市長に「高山市のポテンシャルと課題」について10分ほどお話しください。
  • 國島高山市の面積は2,177平方kmと東京都よりも広く、その面積の92%を山林が占めています。高山市が作成したエネルギービジョンは自然エネルギーによるまちづくりを掲げ、電気とともに熱を上手に使うことを目標にしています。自然エネルギーを知ってもらうため「子ども大学」や「エネルギー大作戦フォーラム」などを開催しています。2015年の地域エネルギー支出額は106億円で、これを少しでも削減し、地域エネルギーの自給率を高めたいと考えています。
  • 谷渕社長は「しぶきの湯における熱電併給事業」についてご説明ください。
  • 谷渕電力会社との契約により、電力を販売しようとしても4~6月の土日祝日の8:00~18:00は送電できないという送電線への様々な接続制限があります。高山市地域では電力需要より発電量が多いためです。やむをえない事情があるにせよ、企業としては稼働効率を上げることが難しいのです。このため熱を隣接の温浴施設に販売するなどの方法で収益確保を目指しています。
  • 電力自由化の中で様々な対応を迫られている中部電力の坂井室長には「中部電力が取り組む再生可能エネルギーの現状・課題と今後の動向」というテーマでお話を伺います。
  • 坂井1000MW級の火力発電所1基分(約650万MWh/年)を代替させようとすると太陽光発電では67平方kmが必要となるなど、再生可能エネルギーはエネルギー密度が低いことが欠点です。しかし化石燃料を減らすうえで、再生可能エネルギーは欠かせない存在です。総発電量に占める再生可能エネルギーの割合は世界全体で2017年には、26.5%に達しましたが、我が国は2018年でも17.4%にとどまっています。中電グループの再エネ設備量は2018年で258万kWですが、2030年までに200万kW以上上積みする計画です。
  • 中電では木質バイオマス発電に進出する計画はあるのでしょうか。
  • 坂井バイオマス発電は小型のものを考えています。地域と組んで熱供給も行いたい。電気を売る会社ではなく、「温かさと明るさを売る会社」にコンセプトを変えていきたい。
  • シュタットベルケについて解説してください。
  • 村上シュタットは都市の意味で、シュタットベルケは都市公社などと訳されます。分かりやすく言うと上下水道、住宅供給、ガス・電力、バスなど交通機関など生存権に関連する仕事をする組織で、劇場や楽団、プール、映画館なども運営するところもある自治体所有の企業のことです。その会社に市民が株主として資金を投じることで、地域に立脚したサービスを提供する会社になるのです。株主になることで受益者の立場だけでなく、経営側の立場も理解することが確かな自治を生み出します。他の地域から来た企業の“植民地”となることを防ぐのです。
  • 谷渕自社の資本構成のうち7割が地元資本です。地元人材を採用し育てる努力をしています。飛騨高山しぶきの湯バイオマス発電所の電気メーターの動きで独居老人の安否確認もできるので、見守りサービスなどきめ細かなサービスを提供していきたい。
  • 國島もともと自治体は「生存権提供会社」という性格を持つ。今まで市は補助金行政をしていたが、出資中心の事業も取り入れて民間の企業をうまく使っていくことを考える必要があります。
  • 村上2020年から電力業界では発電と送電の会社に分離される。自分は一体どの会社から電気を買うべきなのか、その会社の経営方針は本当に正しいのかなどを考えたうえで契約を結ぶべきだ。選挙と同じように意思表示をすることが地域の未来を切り開いていくのです。
  • 電気の購入でも地域振興でも、自分のこととして行動することが、子どもたちの未来に対しても元気なアプローチを生み出します。本日はありがとうございました。

▽閉会の挨拶 杉山範子(日本サステイナブルコミュニティ協会代表理事副会長/名古屋大学大学院特任准教授)
 京都議定書からパリ協定に代わり、時代は低炭素から脱炭素の時代に目まぐるしく変わっています。エネルギー転換を果たすには私たちの価値観も変えていく必要があります。実は今地方から生活スタイルの転換、エネルギーや価値観の転換が始まっているのではないかと感じています。その流れを推し進めるには地元の人がどれだけ関わり、危機感を感じ、本気スイッチが入るかどうかにかかっています。そして様々なことに女性がかかわり発言していくことが、新しい時代を作ります。全国に先駆け「奥飛騨版生存権提供会社」がいつの日かできることを楽しみにしています。