サステイナブルコミュニティシンポジウム 第3弾!!
「バイオマス挑戦事例を学び、実装計画づくりを進める」をテーマに
基調講演とパネルディスカッション
一般社団法人日本サステイナブルコミュニティ協会(JSC-A=代表理事会長増田寛也・東京大学大学院客員教授)は、5月24日(金)午前に東京大学弥生講堂(東京都文京区)で総会記念シンポジウムを開催しました。テーマはバイオマス挑戦事例を学び、実装計画づくりを進める」。昨年2月末の設立記念シンポジウム、今年2月6日の共同シンポジウムに続く3回目の「サステイナブルコミュニティシンポジウム」であり、自治体関係者、報道関係者、協会関係者を含め約120人が参加しました。
▽主催者挨拶 杉山範子・日本サステイナブルコミュニティ協会代表理事副会長(名古屋大学大学院特任准教授)
◆地球環境を守り、持続できる地域づくりを実践事例から学ぶ
日本サステイナブルコミュニティ協会は、昨年2月28日の設立時に最初のシンポジウムを開催し、3カ月後の5月15日に第1回総会と記念シンポジウムを開催いたしました。今回は本日午前に開催した第2回総会を記念したシンポジウムです。
こうした東京での大きなシンポジウムとは別に、三重県津市で出張勉強会を開催したほか、福島県、長野県伊那市、長崎県から勉強会の開催や講師派遣依頼に応えてまいりました。地球環境を守る、持続できる地域を創る―という理念だけでなく、どうやったらその両方を地域から実践できるのかを考えようというのが今回の趣旨です。
現在、正会員企業10社、賛助会員企業10社、そして18の自治体が特別会員として加盟しています。本日は開会の挨拶と3つの基調講演の後、パネルディスカッションを開催いたします。
▽開会の挨拶 仁多見俊夫(にたみ・としお)東京大学大学院農学生命科学研究科准教授
◆情報の活用でビジネスとして魅力ある林業に
本日お集りの皆さんは、森林資源をバイオマス発電にどう活用すべきかなどの視点からエネルギーと環境の問題を考えておられます。これに対し私は「ICT(情報通信技術)が拓くスマート林業の姿」といったテーマで、林業の成長産業化をどう進めるべきかの観点から森林を考えています。
森林環境税、森林環境譲与税、森林経営管理法といった制度面での整備がようやく進んできました。こうした中で林業をもっとやる気になれるような、ビジネスとして魅力があるものにしたいのです。私は進んだ技術の取り入れ方によってはビジネスになると考えています。本日は地域の資源とつながった事業をどう構築するかについて熱く語ってください。
<第1部 基調講演>
末吉竹二郎・国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問
「21世紀が求めるサステナブル金融を考える」
◆SDGsとパリ協定が動かし始めた世界で「創造的破壊」が始まる
私は銀行員として育ち、世の中の動きをお金の面からみています。その経験から得たのは大局観が大事だということです。「SDGsとパリ協定が今の世の中を動かしている。この2つの流れにより、破壊と創造が同時に進んでいる」と私は考えています。英語で表せばInnovative Disruption (創造的破壊)です。
国連環境計画(UNEP)金融イニシアチブ(FI)の会議が2003年に東京で開かれ、2006年4月には「責任投資原則(PRI)」という新しい考えが示されました。我々機関投資に対し、投資分析と投資決定のプロセスに「ESG(環境・社会・ガバナンス)」を反映させるよう原則を示したものです。投資にお金以外の要素を持ち込んで使い方を決めるのは初めてのことです。
どんなにいい会社に見えても、売り上げ増加の背景に環境を破壊し、社会に迷惑をかけていたらその会社の意味はない――という判断に変わったのです。
そしてもう1つの大きな流れが「パリ協定」です。「パリ協定は世界の価値観を変えた」と言って過言ではありません。「低炭素ならいい」という考えから、「ゼロエミッション」つまり脱炭素に大きく転換させたのです。
英語で言えば「イノバティブディスラプションInnovative Disruption」(創造的破壊)です。車はパリ協定の登場によって「エンジンよ、さようなら」の時代に入ったのです。
◆気候変動は金融リスクに、気温4度上昇で保険成り立たず
さて昨年の日本は猛暑でした。日本損害保険協会の18年度風水災害の保険金支払い額1.4兆円と過去最高を記録しました。通常年の4000億~5000億円と比べいかに災害が多かったかが分かります。
世界的に知られる仏保険会社アクサ(AXA)は「世界の気温が4度上がったら保険が成り立たなくなる」と言っています。すでに運用の対象として石炭関連を外す動きが表面化しています。
様々な事柄に対して損保が引き受けないとなったら、日常生活が非常に困ったことになります。地球温暖化の影響はここまで広がっているのです。
中国銀行保険監督管理委員会では「新しい火力発電所を作っても技術的には30年持っても、経済競争力は5~10年しか持たない。それらの座礁資産から資金を徐々に引き揚げろ」と述べています。この火力発電所のように急速に価値を失うものが「座礁資産」です。
気候変動がもたらすであろうリスクを、お金に換算した財務データで出すことは、気象は暑い、寒いではなく企業リスクで見る時代になったことを意味します。
米サステナビリティ会計基準審議会では、貸出審査プロセスに「気候変動や資源の枯渇問題、人権侵害」を取り上げることにしました。
◆脱炭素社会の移行過程に日本の経済成長の源(カギ)がある
気候変動は金融リスクになる中で、我が国の金融庁もTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)を金融行政に取り入れました。
国連環境計画(UNEP)金融イニシアチブ(FI)の会議で「責任銀行原則」という考えが導入されました。これからの商業銀行は「SDGsとパリ協定」に準拠すべき――というものです。
脱炭素社会の移行過程に日本の経済成長の源(カギ)があると私は考えています。Bankable、今日まではいい融資案件でも、Unbankableになる。逆にこれまでは金を貸す対象ではなかったものが対象になる。つまり新しいチャンスが持続可能な脱炭素社会を作る過程で生まれるのです。
SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標を達成するには、この社会を根本から変えるくらいのことが必要です。社会のシステム、経済モデルそのものの転換が必須なのです。
青木秀樹・岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)村長
「自治体による森林管理の有効性」
現在日本の7割が森林です。このうち手をいれなければならない森林が4割あります。昭和30年代の木材単価と今の価格を比べると、実はほとんど同じなのです。1立法メートル1万3000円。これでは山を整備すると赤字になるばかりです。
世界第3位の森林国なのに7割の木材を輸入しているというのが今の日本の姿なのです。木材の価格が60年間変わらなかったというのは、逆に言えば過去の水準がすごい価格だったともいえるかもしれません。
平成16年に「自治体の平成の大合併」が起きました。私たちは住民アンケートを実施し、合併しないという判断を下しました。合併を選択しなかった中で、30年後この山はこのままで生き延びるだろうかという不安を抱いていました。その中から生まれたのが「百年の森林(もり)」構想です。
森林は日々成長しているから、民有林であっても下刈りを止めるわけにはいかないのです。皆さんの山を所有者に任せず、10年契約で村が預かる。売れたらお金の半分は村にバックしてもらう方式です。
◆木材加工場の導入が林業の活路を開く
村の中に、これまでなかった木材の加工場を作りました。工場があれば間伐材の行く場ができます。そして間伐をすることで森林には光が差し、いい木が育つようになります。
木材加工場を村に作ると別の効果も生まれます。恒常的に仕事が生まれ、その木材を使った小さな林業ベンチャーも育ちました。手軽に住宅の床を整備できるよう「ユカハリタイル」という商品を生み出しました。
間伐材はこれまで山に切り捨てでした。搬出したら金がかかるからです。雨が降ると堰をつくり、土石流になる危険がありました。しかしボイラーを設置し、間伐材を燃料として使えば、災害の不安もなくなるし、今まで重油や灯油で賄っていた4000万円とか5000万円という燃料費が中東ではなく、村に金が落ちるのです。
間伐材を使ってビジネスが出来ないだろうかと考えた都会の若い人が集まってくれました。家具には不向きと言われていたヒノキで家具を作る会社もできて、1脚が30万超える商品も生まれました。10年前はゼロだった木材加工業だけでも10億円の売上高になったのです。そして60~70人分の雇用が生まれました。
人工林はずっと手を入れる必要のある森です。市場経済で回すには危険があります。私たちの森林管理により公的資金でやることが有効であることが証明されました。
私たちの間伐材と同じように、どの自治体にも素晴らしい地域資源があるはずです。それをどう生かしていくのかのモデル自治体として、皆さんの役に立ちたいと考えています。
増田寛也・東京大学公共政策大学院客員教授
「増加する所有者不明土地の管理と活用法」
岡山県西粟倉村の「百年の森林(もり)構想環」でもおそらく所有者不明土地問題で大変なご苦労をされたと思っています。所有者不明土地は山林だけでなくこの東京大学の周辺でも実は増えていて、マンションを計画していた不動産会社が、所有者不明土地の問題で、対象地域での建設をあきらめたという話も増えています。
◆全国の所有者不明土地、九州の面積超える
所有者不明土地の推定面積は410万haにも上り、九州地方の面積368万haを超えているのです。国交省も実態を把握しようと地籍調査をしているのですが、調査書送っても戻ってくることも多いのです。団塊の世代の大量相続の時代に入り、5年ごとに山口県分ずつ広がるともいわれ、2040年には720万haと北海道の面積になる計算です。
登記簿を見れば相続が分かりますが、義務化されているわけではなく、対抗要件にすぎないので、登記簿に正確な情報が記されているとは限らないのです。
バブル、土地神話の時と正反対に、今の時代は売りたくても買ってくれない事態も生まれていて、「負動産」という言葉も生まれています。誰も買う人もいないし、役所も寄付を断る。相続料を負担したくないから相続の手続き・登記をしない。悪循環が起きています。どの省庁も問題の大きさに二の足を踏んでいます。財務省理財局なのか法務省なのか。所有者不明土地利用円滑化法という制度がスタートしましたが、さらに制度を充実し不明地でも十分利活用できるようにしたいと考えています。
全ての土地に真の所有者が分かる制度にするべきでしょう。相続の義務化、そして生前に所有権放棄が出来るようにする。さらに相続放棄する人から金をもらうことも考えたい。
土地は家屋と違って無くなることはないので、こういう問題が起きるのです。歴史にある「太閤検地」みたいな「令和検地」が必要だと考えています。
<第2部 パネルディスカッション『挑戦事例に学ぶ国土・森林活用策』>
第1部の基調講演に続き、第2部のパネルディスカッション「挑戦事例に学ぶ 国土・森林の活用策」を開催しました。増田寛也・日本サステイナブルコミュニティ協会(JSC-A)代表理事会長をモデレーターに、基調講演で登壇した青木秀樹・岡山県西粟倉村村長、宮崎県串間市でバイオマス発電所を運営する「くしま木質バイオマス株式会社」の堀口三千年(みちとし)社長、そして日本サステイナブルコミュニティ協会代表理事副会長の柏木孝夫・東京工業大学特命教授が講師として登壇しました。
▽閉会挨拶 杉山範子・日本サステイナブルコミュニティ協会代表理事副会長(名古屋大学大学院特任准教授)
◆未来の地域づくり、JSC-Aが事例紹介やアドバイス提供
本日は基調講演、パネルディスカッションを通じて、様々な提言や参考になるお話を講師の皆さんにお聞かせいただきました。化石燃料から再生可能エネルギーに転換するには、私たち自身の価値観も転換する必要があります。私どもの日本サステイナブルコミュニティ協会(JSC-A)では、「どのように地域を変えていかなくてはいけないのか」といった未来を見据えた判断を地域が求められる場合、様々な知恵や事例を紹介し地域を応援していきます。簡単なフィージビリティスタディー(実現可能性調査)や、専門家によるアドバイスも提供します。こうしたJSC-Aの活動に対し今後も皆さんのご支援と参加をお願いしたいと考えています。本日はありがとうございました。