地域を支える“価値”

地方創生コラム 第18回
「地域を支える“価値”~値打ちをどう高めるのか~〈第1回〉

 およそ世の中のモノ、コトには必ず価値がある。食物や衣服といった有形のものだけでなく、無形のもの―たとえば地域という枠組み―にも価値がある。本稿ではこの“地域の価値”について考えてみたい。地域の価値こそが地方が再浮上するカギとなると考えているからだ。正面切って対抗したのでは東京に勝ち目のない地方が、ただお題目だけで再生されるとは思えない。その地域固有の価値という概念で勝負するしかないのではないだろうか。

 筆者は現在、神戸のシン・エナジー株式会社で広報を担当する者であるが、昨年の大晦日まで愛媛県の山村にある第3セクターに所属し、現地の村おこしに20年間従事してきた。そこにしかない価値を発掘し、何よりその価値を向上させることを大切にした20年間であったように思う。そこでの取組を今号より3回にわたって紹介していきたい。

 愛媛県の東端に新宮(しんぐう)村という地域がある。正確には2004年に周辺市町と合併したから、現在は四国中央市新宮町という。標高7001000mの山に囲まれた典型的な山間地域で、目立った産業といえば農林業のみ。なかでも無農薬栽培のお茶はかろうじて愛媛県内では一定の評価を得ている。

 新宮村も他の山間地域同様、1950年代に6000人を数えた人口が現在は1000人程度と急速な過疎化に直面している。これにはさまざまな要因があるが、とくに大きかったのは地域経済の崩壊であろう。村民は便利さを求め、峠越えの悪路ではなくトンネルで市域部との直結を望んだ。長年かけてその悲願が叶ったとき、誰がその後の凋落を予想しただろうか。買い物は市域部に出かけるようになる、村内の商店は次々とたたまれる、不便になる、市域部へ引っ越す、子供が減る、公共施設が縮小される、といったサイクルで地域経済が完全に失われた。村内で身の丈に合ったサイズで循環していた経済が、堰を切ったように村外へ流出したのである。市域部には日本一の工業出荷額を誇る製紙産業が立地しており、村内にわずかに残った若い労働力もほぼすべて市域部に吸い取られてしまった。

 村が活性化の方針を打ち出した時にはすでに村民の未来への志向はしぼんでいた。筆者が村おこしスタッフの全国公募に応じ、東京から新宮村に移住したのはその頃のことだ。村内随所で感じたのは、自分たちの地域を誇らしげに話そうとする村民が少なかったことだった。「早く合併して村から市になりたい」「進学で市域部の高校に通うと、村には電気などないだろうとからかわれる」など、出てくる言葉からも自信のなさが窺われた。そこで村おこしの目標を「村民が新宮村を自慢できるようになること」に置いた。そのためには新宮村が他の地域より優れている点があることを示さなければならなかった。

 お茶がある。地元の“新宮茶”は無農薬ゆえ強い生命力を持つ特徴あるお茶なのだ。このお茶を最大の武器にして、新宮村の価値を高めていこう。1999年、こうして愛媛の山奥で静かな戦いが始まった。(⇒第2回に続く

(シン・エナジー株式会社 ブランドコミュニケーション担当 平野俊己)

 

新宮村の茶畑(株式会社やまびこより転載)