地域型バイオマスフォーラム
~バイオマス分散型エネルギー創出による地域サービスを考える~
▽バイオマス7団体が系統連系などで国に共同提言
フォーラム開き「地域持続とバイオマス」など議論
バイオマスを生かして地域創生と地球環境の保全を進めるバイオマス関連7団体は7月19日、東京の国立オリンピック記念青少年総合センターで「地域型バイオマスフォーラム~バイオマス分散型エネルギー創出による地域サービスを考える~」というテーマの共同フォーラムと、7団体がまとめた国に対する「共同提言に向けた『地域型バイオマス推進に向けた基本的考え』」(以下、「基本的考え方」と略す。)を説明する記者発表を開催した。
このうち「基本的考え」は、バイオマスが再生可能な資源で、環境対策や災害時の緊急対応にも活用できるなどの特徴を列挙したうえで、バイオマス発電事業の自立化が図られるまでのFIT制度の継続、熱電併給(コージェネレーション)の推進、系統連系の強化などの要望を盛り込んでいる。記者発表には全国紙、通信社、専門紙など8社が参加した。
一方、今回が初めての開催となる共同フォーラムでは、まず増田寛也・東京大学大学院客員教授が開会挨拶に立ち「7団体の共同提案はSDGsの理念を映し国の今後の進むべき方向性を示すもの」と評価した。基調講演では中島恵理・環境省環境計画課計画官が共同提案の内容にも通じる環境省の『地域循環共生圏』という考えを説明し今後の進め方について講演した。
続けて基調講演した高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授が「日本の農山漁村は、再生可能エネルギーを地産地消するだけでなく、地域外に供給することを通じて人口減少、高齢化などその地域の多様な課題を解決してほしい」と述べた。
パネルディスカッションには8人が講師として登壇し、「熱を生かして農業の6次産業化を図るべきだ」「地域のニーズをどう市場化するかが、地域持続の最も大事な論点」「バイオマスを電気や熱から見た価値だけでなくの社会的価値からも評価を」など様々な角度からの提言がなされた。最後に環境省の中島氏からバイオマス関連7団体と今後も意見交換の場を持ちたい、という提案が出され、関係者から歓迎の意向が示された。
同フォーラムには、一般から約230人の方が参加した。
◇今回共同フォーラムを開催したのは下記の7団体。
・(一社)日本有機資源協会(JORA)
・バイオガス事業推進協議会(ガス協)
・(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会(JWBA)
・(一社)日本サステイナブルコミュニティ協会(JSC-A)
・(一社)日本シュタットベルケネットワーク(JSWNW)
・NPOバイオマス産業社会ネットワーク(BIN)
・NPO農都会議(NOUTOKAIGI)
<基調講演・パネルディスカッションの詳細>
【開会挨拶】
▽7団体の共同提案、SDGsの理念映し国の在り方示す
増田寛也・東京大学公共政策大学院客員教授/日本サステイナブルコミュニティ協会代表理事会長
環境問題とエネルギー問題にかかわってきた7つの団体が共催して、グローバルな視点からこれからの国の在り方を考え、提言することは大きな意味がある。日本の急速な少子高齢化、人口減少に歯止めをかけ、首都圏への人口集中に歯止めをかけるために2014年12月に内閣に設置された『まち・ひと・しごと創生本部』は今年12月に5年の事業期間を迎え、2020年から第2期に入る。第2期ではSDGs(持続可能な発展目標)、ソサエティー5.0、外国人との多文化共生という考えが盛り込まれるだろう。そうした時期にSDGsの考えを随所に取り入れた7団体の「共同提言」が発表されたことはとても意義のあることだと考えている。分散型エネルギー源を地域で確保し、それを熱電併給(コージェネレーション)や系統連系、そしてテクノロジーを強化することでコストも下げて行こうという考えは評価でき、これからの国の在り方を示すものである。
「バイオマスを活用した長野県における地域循環共生圏の取組」
中島恵理・環境省環境計画課計画官(前長野県副知事)
環境省に入省後、2011年4月から2年間長野県環境部温暖化対策課長を務め、環境省に戻った後の2015年4月から4年間、長野県の副知事を経験した。また環境省などに勤務する傍ら、長野県富士見町に18年前から住み、「食・住まい・エネルギー」の自給を生活の中で実践する「地域循環共生圏型エコライフ」を送っている。
長野県は2013~2020年の8年間を計画期間とする「長野県環境エネルギー戦略」を策定し、SDGsを環境、経済、社会の3つの側面から実践する取り組みを行っている。調査したところ農産品などの販売で県外から入ってくる収入は年間3,000億円だが、石油など化石燃料購入などで県外に流出する金額は同4,000億円と1,000億円も上回った。
そこで太陽光発電、小水力発電、バイオマス発電、グリーン熱(太陽熱、地中熱、温泉熱等)といった自然エネルギーの活用にまず乗り出した。再生可能エネルギーによる発電に意欲はあるものの、資金調達が困難な事業者の初期投資を支援するため「収益納付型補助金制度」を創設し、普及を後押ししている。
一方、環境省では地域の取り組みと歩調を合わせ、地域資源を持続可能な形で最大限活用し、地域が「自立分散」「相互連携」「循環共生」できるようにする「地域循環共生圏」という政策理念を作った。同理念の実践を通して脱炭素化とSDGsを推進する。この地域循環共生圏を事業化していく過程で今回のバイオマス7団体とも連携していきたい。
「再生可能エネルギーの現状と政策課題~地域型バイオマスへの期待」
高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授
再生可能エネルギーはFIT(固定価格買取制度)の下で導入が拡大し、2017年度で再エネは電源構成の16%を占めた。水力を除く再エネで見ればFIT導入前の2011年度の3倍になっている。
2018年7月に「第5次エネルギー基本計画」が策定され、再生可能エネルギーの「主力電源化」が盛り込まれたことで経済産業省の再エネに対する取り組みは腰が据わってきた。
同じ再エネでも、太陽光と風力については急速なコストダウンが見込まれるのに対して、地熱、中小水力、バイオマスについては地域との共生を図りつつ、緩やかに自立化に向かうものとして、両者を再エネとして一括りにせず分けて考えている。
事業用太陽光のFIT買取価格は2019年度で1kWh当たり14円と2030年度に目標設定していた価格水準にすでに下がっている。
再エネに関する技術特許の累積シェア(2016年末)を見ると中国29%、米国18%、EU14%、そして日本も14%でEUとほぼ肩を並べる。
事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業「RE100」として登録された企業は2019年7月現在で世界に188社。このうち日本企業が20社を占める。経済誌「東洋経済」が2019年5月に実施した電力に関する企業アンケートでは、電力の安定供給や価格よりCO2排出係数の低い電力の供給を求める回答が最も多かった。また産業立地においてCO2を排出しないことが企業の立地選択の重要な要素になってきた。
日本の農山漁村は食料や資源を供給する重要な役割りを持つ。再生可能エネルギーを地産地消するだけでなく、その再エネ資源を地域外に供給することを通じて、脱炭素社会への転換に貢献すると同時に、人口減少、高齢化などその地域の多様な課題を解決することだ。
今回、7団体による共同提言が発表されたが、今後もこうした提言を出してほしい。
【第2部 パネルディスカッション】
テーマ:「バイオマス分散型エネルギー創出による地域サービスを考える」
■モデレーター
・NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊みゆき氏
■パネリスト
・群馬県上野村前村長 神田強平氏
・(一社)徳島地域エネルギー常務理事 羽里信和氏
・バイオガス事業推進協議会事務局次長 小川幸正氏
・日本サステイナブルコミュニティ協会発起人、持続可能経済協会代表 熊野英介氏
・東京工業大学特命教授・先進エネルギー国際研究センター長 柏木孝夫氏
・(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会副会長 加藤鐵夫氏
・NPO九州バイオマスフォーラム事務局長 中坊真氏
・(一社)日本有機資源協会事務局長 嶋本浩治氏
〔壇上席順、敬称略〕泊 嶋本 中坊 加藤 柏木 熊野 小川 羽里 神田
◆「真の地産地消型エネルギー」で議員連盟結成
◆徳島、九州でバイオマスの熱利用広まる
◆JORA、JWBAも熱利用を後押し
◆「地域のニーズをどう市場化するか」
◆熱を生かして農業の6次産業化
〔討論のまとめ〕
◆庁と民間団体で意見交換の場が必要
◆バイオマスの社会的価値評価を
◆すでにあるものをうまく使う
【講評】
▽持続可能な地域づくりでバイオマスの役割に期待
(一社)日本シュタットベルケネットワーク理事 村岡元司氏
持続可能な地域をどう作るかという課題がある中で、バイオマスの役割がとても大きいということが本日のフォーラムを通じて明らかになった。討論の中で泊氏が指摘していた「今あるものをうまく使うことが大事」という言葉が印象に残った。7団体が共同でフォーラムを開催した意味は大きく、今後、関係省庁も含め話し合える場を持ちたい。
【開会挨拶】
▽共同提言、今秋にも肉付け版
NPO法人農都会議 代表理事 杉浦英世氏
有料で開催した今回の共同フォーラムに200人を超える方が参加してくれたのは、バイオマス関係7団体が集まることに対する期待と応援の表れかもしれない。報道関係者も全国紙や通信社、専門紙、雑誌を含め10社が来てくれた。フォーラムを、全国各地域の団体とも意見交換できるプラットフォーム作りのきっかけとしたい。7団体は月毎に意見交換の場を設け、今回の共同提言「基本的考え方」に肉付けした提言を改めて出す考えだ。これからもご縁をつないで、持続可能な地域づくりを一緒に進めたい。