「地域から始まる社会転換への試み『世界首長誓約/日本』」

地方創生コラム 第3回
「地域から始まる社会転換への試み『世界首長誓約/日本』」

 猛烈な暑さ、西日本を中心とした豪雨災害、次々に発生する台風など、2018年の夏は「異常」ずくめだったと言えるでしょう。8月3日、観測史上1位の最高気温40.3℃を記録した名古屋で、体温より高い空気の中で呼吸しながら、私は40℃の事実を感じていました。この猛暑は、遅かれ早かれ訪れるであろう「近未来」を経験したのだと受け止めています。

 最高気温や雨量など、各地で気象の記録が塗り替えられていくことに多くの人がもはや慣れてしまいましたが、気象の記録更新はオリンピックなどスポーツ競技の記録とは違い、喜ばしいことではありません。これまでの気象観測で現れなかったような新記録が出ることはまさに「気候変動」が進行していることの証拠なのです。
 地球温暖化問題は1990年代から「待ったなし」「喫緊の課題だ」といわれ続け、今に至っています。普及啓発は十分に進み、多くの日本人が認知していますが、「省エネをがんばれば何とかなる」と思っている人が多いのではないでしょうか?

 今一度、みなさんに問いかけてみたいと思います。「あなたにとって地球温暖化はいったい何が問題ですか?」。もしかしたら、自分は大丈夫と思う「正常性バイアス」が働いていませんか?
 残念ながら、地球温暖化は今世紀中には「STOP」できないレベルになっています。これまでのような「我慢」や「気合い」の取り組みではもう立ち行きません。これから私たちが一丸になって取り組まなければならないのは、原因物質である温室効果ガスをなるべく排出しない街や社会づくり、つまり、脱炭素社会づくりを進めていくこと、そして、来たる気候変動の悪影響に備える「適応策」を進めること、です。

 この難しい挑戦に、地域から、首長のリーダーシップによって、取り組んでいこうというムーブメントが世界各地で起こり始めています。2008年に欧州連合(EU)で始まった「Covenant of Mayors(首長誓約)」は、再生可能エネルギーの導入促進、国(EU)の削減目標以上の温室効果ガスの削減を目指すこと、適応策へ取り組むこと、を首長が誓約し、具体的なアクションプランを作って取り組んでいきます。すでに参加自治体の人口はEUの約50%をカバーするまでになりました。2017年からは「Global Covenant of Mayors(世界首長誓約)」として、世界中でこの仕組みを展開することになりました。現在、世界で9,000を超える自治体が参加しています。 日本では「世界首長誓約/日本」が立ち上がり、2018年8月より、首長の誓約・登録の受付を始めたところです。8月下旬までに、5つの自治体(大津市、ニセコ町、五島市、豊中市、南牧村)の首長が新たに「世界首長誓約/日本」に参加しています。(詳しくは https://covenantofmayors-japan.jp/ をご覧ください。)

 日本の「地域」では、世界中のどの国も経験したことのないような高齢化・人口減少が進行しています。地球温暖化に起因するとみられる自然災害が頻発し、人々の暮らし、命を脅かすようになっています。これから、持続可能な地域社会・地域経済、災害にしなやかに対応できるレジリエントな地域づくりという大きな課題に立ち向かっていくためには、危機を正しく認識し、長期的な視点で捉え、これまでの単純延長ではない取り組みに大きく舵を切っていかなければなりません。
 今こそ、首長のリーダーシップと地域のみなさんの参加、企業の技術と経験が必要です。未来に向けて、持続可能な社会への転換は、地域からこそできると信じています。

(日本サステイナブルコミュニティ協会代表理事副会長/名古屋大学特任准教授 杉山範子)