「地域へのこだわりが再生力を生む ~上野村と黒潮町~」

地方創生コラム 第1回
「地域へのこだわりが再生力を生む ~上野村と黒潮町~」

 日本サステイナブルコミュニティ協会(JSC-A)が5月に開いた講演会とパネルディスカッション。どの講師もこれからの日本を地域から再生するのに役立ちたいという気構えで、様々な経験や知識を惜しみなく披露してくれた。
 その中で個人として感銘したのが群馬県上野村の黒澤八郎村長の「“挑戦と自立の村”の森林バイオマスを100%使い切る創生戦略」という講演と、その後のパネルディスカッションでの発言だった。
 「私たちは持続する社会を目指して村の持つ『モノ』の価値の再発見とその活用に徹底的にこだわり、産業振興と雇用の場の創出に力を注いできた。
 森へのこだわりは、きのこセンターの規模拡大となって表れた。バイオマス発電にも徹底的にこだわり、再エネで買った図書館の本は『再エネ文庫』と 名付けるなど、いつか『バイオマスの村』と言われるまで徹底したい」と述べている。
 実際、発電所だけでは使い切れないペレットについては家庭用のペレットストーブを普及させ、老人福祉施設などにも対象を広げる努力を積み重ねていった。地域再生ではこうした「こだわり」が力を発揮する。


 高知県黒潮町。平成の大合併で誕生した町だがここでホエールウオッチングが4-10月に行われている。湾内に住み着いてしまった体長10-15メートルの鯨を遊漁船などで見る観光イベントだ。参加費は所要時間4時間で大人1人6,000円という。
 このホエールウオッチングが始まったのは実は平成元年のころ。合併前の大方町を地元とする若手が集まって鯨を観光資源にできないか、それなら漁船や遊漁船を使ってやればいい、などさまざまな意見を戦わせて、ともかくやってみようということになった。
 当時、高知で仕事をしていた私も好奇心に駆られ乗船した。船に乗って鯨を見つけると警戒感を持たれないように最初は遠巻きにゆっくりと近づく。安心させると今度は鯨の方から近寄ってきて、船の周りで遊ぶ。船と同じくらいの大きさなのに、可愛いと感じてしまう。いつしか鯨と心が通い合ったような 不思議な感動が横切る。地元紙などにホエールウオッチングがニュースとして載ると、次から次へと観光客が訪れた。
 ホエールウオッチングの成功に気をよくして、浜辺近くに植えたラッキョウが花をつけるころ、ラッキョウの花見会を開催。ラッキョウそのものも「クジラッキョウ」という商品名で売り出した。ついには浜に打ち上げられた海外などからの漂流物(ごみ)を使ったアート展まで開催。
 ホエールウオッチングより少し早く始まったTシャツアート展も30年続いている。Tシャツに思い思いの写真などをプリントし、浜辺に設置した物干し竿にTシャツを なびかせるイベントだ。会場となる「砂浜美術館」は白砂の浜辺のこと。建造物は必要ない。
 黒潮町の例は再生可能エネルギーによる地域再生ではないものの、鯨と浜辺を地域資源と見立てて、それへのこだわりが地域再生につながっている。

 これらの例に共通するのは失敗を恐れるよりまず一歩足を踏み出し実施していることだ。それが二歩目を誘い三歩目につながった。上野村もバイオマス発電所の建設に踏み出したことが、林業やきのこセンター、木材加工場の増産に結びつき雇用を生んだ。
 二つ目の共通点はリーダーや参加する者に強い地域愛があり、いつも地域の事を考えているという点だ。偏差値的優秀さではなく、人間的魅力が団結を呼ぶ。
 上野村と黒潮町。どちらも高齢化と人口減少に苦しむ町だが、持続可能な街づくりに挑戦する自治体として見守っていきたい。

(元経済紙記者 府川浩)